Simone Engelen / 27 Drafts インタビュー

Added on by Yusuke Nakajima.

POSTでは、オランダ人写真家Simone Engelen(シモーネ・エンゲレン)の展覧会が開催中です。
今回の展覧会は彼女の最新作品集「27 Drafts」が、オランダの出版社
Fw: Booksから刊行されたことを記念しています。
シモーネはカリフォルニアで留学生として学生生活を送り、その間2人の男性から性被害を受けました。このことは彼女のその後の人生において、人との関わり方を変えただけではなく、親密さという概念に対しての認識が再構築されるきっかけになったと言います。
「27 Drafts」は、事件の10年後にアメリカに戻り撮影した写真や、高校のイヤーブックの画像、Facebookの映像、日記などをまとめて制作した作品集です。
今回のインタビューでは、アメリカでの事件から「27 Drafts」の制作に至るまでの経緯をメインに、作品「27 Drafts」に期待する役割についても伺いました。

アメリカに留学されたのは、高校生の時でしょうか?

はい、そうです。カリフォルニアドリームに憧れがあったので、オランダの高校に在学中、アメリカに1年間行くことを決めました。自分が何をやりたいのかはっきりと見えていたので、とてもワクワクしていたんです。
結局アメリカでの時間は自分が期待していたものとは違うものになりましたが、もちろん良い出来事もいくつかありました。

その後の数年間はアメリカでの事件のことを考えないように、記憶にふたをしてやり過ごしていたのを覚えています。アートアカデミーに通い写真を撮り始めたりと試行錯誤してみましたが、どのように自分の作品を人に伝えたら良いのか迷っていました。同時にヨガのレッスンを初め、それに熱中しながらもアーティスト活動でどのように生計をたてて良いのかわからず、諦めの気持ちも出ていた時期だと思います。
ヨガは自分にとって論理的で新しいものであったので、とても面白く、その後先生になるためのコースを受講し始めました。そのトレーニングの合間に本をたくさん読んでいたのですが、読書から学んだことを記録する際、自分はメモを残したり、スケッチをしたりと、ビジュアルに頼っていることに気がついたんです。その時、作品制作をやめることはできない、ただ作り続けたいと強く感じました。



その後、本格的に写真の勉強を始められたのですか?

はい。St. Joost School of Art & Designの修士課程で写真の勉強を始めました。同じ時期にある男性と交際をスタートしたのですが、彼との関係を深める中で、アメリカでの出来事が自分にとても悪い影響を与えていることに初めて気がついたんです。
そこでこの大学院での2年間を自分に何が起こったのか、しっかりと向き合う時間にしようと決めました。コントロールされること、またその状況から抜け出すことに関するさまざまなプロジェクトに取り組みましたよ。
アメリカでの事件の後、ずっと自分のことが嫌いで、不幸だと感じていました。問題に向き合わず感情的にならないように過ごしていたのですが、これは自分自身を守るためのメカニズムでもあったのだと思います。



「27 Drafts」のことを教えてください。

2016年に博士課程を終了し、翌年撮影のためにアメリカに戻りました。それは事件からちょうど10年後のことで、「27 Drafts」のプロジェクトを始めるための旅でした。
当時はまだ自分が抱える問題から逃げていて、フェミニストとしてこのストーリーを伝えたい自分と、伝えるという行為によって傷つく自分が同時に存在し、この時には思ったように撮影をすることはできませんでした。結局ストレスから摂食障害を起こし、リハビリに通うことになってしまったんです。
旅が自分に与えたダメージから、このプロジェクトには時間が必要だと実感しましたが、この時点ですでにFw: Booksのハンス・グレメンとは連絡を取っていて、小さいブックダミーを一緒に制作しながら、いつか本を作ることをイメージし始めていました。

アメリカでの出来事を家族に話したのは、事件が起こってから7年後のことです。
あれから長い時間が経っても、男性との関係に大きな影響があることや、異性との親密な時間をどう扱うか悩んでいることを家族に話しました。
事件当時はオランダにいた家族に心配をかけたくなかったし、お酒を飲んでいたので自分にも非があると思っていたことから、ただ事件のことを忘れようとやり過ごしてきました。
身近な存在の家族にも長い間話せなかったことが、どれだけ自分が問題に向き合っていなかったのかを表していると思います。
このことが自分の大きなトラウマになったのは、対処せずに逃げていたからだと思うのです。もし事件後すぐに家族に打ち明けていたら、違う結果になっていたのかもと思う時があります。

再度アメリカに戻って、この物語に結末をつけたい。コロナ中にそのような話を母としました。すると母は、私も一緒にアメリカに行くよ、と言ってくれたんです。それは自分にとって大きな安心感を与えてくれた言葉で、母が自分に寄り添ってくれていることを実感した出来事でもありました。

©︎ Simone Engelen

母と一緒に行った2回目のアメリカでのロードトリップでは、楽しいと感じる瞬間が多くありました。もちろん心がぎゅっとなる苦しい瞬間もありましたが、母が泣いているのを見て美しいとも感じたんです。
このプロジェクトを写真で表現した理由はいくつかありますが、そのうちの一つが、加害者の男性の写真が残っていたことです。ハウスパーティーで出会ったこの二人の男性は、もっといいパーティーがあるからと嘘をつき、それを信じてついて行った私は性被害に合いました。この写真は証拠であり復讐でもある、「27 Drafts」の始まりとなった一枚です。
また、私の通っていた学校は美しい山に囲まれた村にあり、その風景も写真の性質に合うのではと思いました。その風景には自分が写真で表現したいムードが漂っていたので、この村で1週間過ごし、車で移動しながら撮影をしました。
その村はとても小さいので、それゆえのネガティブな面も感じました。厳しいキリスト教のルールの中で育てられた子供たちが、青年になりそれに反発するような行動をとっている様子が伺えました。
書籍に収められている写真の多くが、この2022年に行った2回目の旅で撮影したものです。



「27 Drafts」の前に発表された作品「Scripted Life」や「Love Hotel」に関して教えてください。
*「Scripted Life(2015)」
アーティスト、写真家や俳優、また家族や友人などに24時間の行動の指示を出してもらい、それに従って作家が行動した様子をまとめた作品
*「Love Hotel(2016)」
性に関するイメージでカプセル状の展示空間内部を埋め、来場者をその中に招き入れ観覧してもらうマルチメディア・インスタレーション

「Scripted Life」はトラウマに対してどう対処したら良いのかわからなかった時に手探りで行ったプロジェクトです。オランダの美術館FOTODOKでの展覧会のために行ったプロジェクトだったので、彼らのサポートのおかげでさまざまな変わった取り組みを行うことができました。
施設を通じて多くの方がプロジェクトのことを知ってくれたので、私の1日の過ごし方を演出する、たくさんの指示書がメールで届きました。
それは本来自分では思いつかない指示を楽しむというパフォーマンスであるはずなのに、自分の人生を他人にコントロールされているという時間が、受け入れ難いことに気がつきました。皮肉にも無意識のうちに過去のトラウマ体験に向かっていくようなプロジェクトとなっていたんです。

もう一つのプロジェクト「Love Hotel」は、日本との出会いの中で生まれました。
私は、自国と違う文化を持っている日本に常に興味を持っていて、友人たちの間でもそのことは有名でした。
「Scripted Life」を行っている際に、友人がくれた指示が「東京までの片道チケットを買う」だったんです。このプロジェクトは24時間の指示書を他人が自分に出すというものでしたが、結局私は東京に6か月滞在しました。
「白い壁に囲まれた部屋で、24時間誰とも話さないで過ごす」という指示をもらい実行した後、沈黙という行為に魅了されていたので、日本のお寺で行っているような瞑想に興味を持っている時期でもありました。この6か月の東京滞在が、自分が日本に恋するきっかけとなり、それ以来いつも日本を訪れるチャンスを狙っています。



東京では、どのように過ごされていましたか?

神楽坂に住み、AYUMI GALLERYの鈴木歩さんとよく会っていました。彼女はオランダに4年間住んでいて、私と日本とのコネクションでもあったんです。また、大学の論文を書くために多くの時間を費やしており、「Love Hotel」に発展するプロジェクトもこの時始めました。

私はカプセルホテルに2週間滞在していた時期があるのですが、今まで書き続けてきた日記をカプセル内の壁に貼りつけ始めました。これはアメリカでの事件を視覚的に表現した初めてのアクションだったのです。母親のお腹の中にいるような構造物の中で、苦しくて叫びたい気持ちを言葉にすると同時に、自分の中に入ることができる人をコントロールしたいという気持ちもありました。
このアイデアをオランダに持ち帰り、自分の中の暗い感情で埋め尽くしたカプセルを作りました。「My body is a hotel - My body is not a hotel(私の身体はホテルであり、私の身体はホテルではない)」というステートメントを掲げ、私の許可を得て来場者が中に入るというインスタレーションが完成したのです。

©︎ Simone Engelen

個人的な物語を公開することはとても勇気がいることだと思います。それによって人から被害者として見られることに対して恐れはありませんでしたか?

この本が作られた意味は、同じようなストーリーを持っている人が、そのことを人に伝えるきっかけになることだと思っています。
このプロジェクトを始めてから、多くの人、特に女性が「他人に話したのは初めて」と言いながらそれぞれのストーリーを私に打ち明けてくれます。実際にそういう話を聞くととても悲しくなるのは事実ですが、もっと多くのストーリーが語られるべき理由はここにあります。
もちろん性被害の話を公開することで弱い存在として見られることに怖さはありましたが、だからこそ男性のハンスと働くことは自分にとって助けになりました。素晴らしいデザイナーの視点が加わり、生暖かくポルノの要素を持った物語として消費されるのではなく、直接的に事実を伝える作品集に仕上がりました。人が私に憐れみの目を向けるのではなく、パワフルな本だと感じてもらえるようなボーダーラインを守りながらの制作を意識していました。



Fw: Booksを主宰するハンス・グレメンが作る本には、私たちもいつも感銘を受けています。

はい、彼は素晴らしいデザイナーだと思います。2017年にプロジェクトをスタートさせようとしたものの、私の準備ができていないために「27 Drafts」は中断しました。それにも関わらずこのプロジェクトを見捨てずにいてくれてとても感謝しています。
本を印刷する2週間前、突然緊張感に襲われた私は全ての写真を見返しました。そしてそのうちの大半を入れ替えたいと思ったのですが、そんな突発的な変更にも、彼の持っている柔軟性で一緒に差し替え案を考えてくれました。



POSTでの展覧会はどうでしたか?

開催前は興奮と緊張を同時に感じていましたが、とても美しい展覧会が完成して安心しています。自分が物語をシェアすれば、必ず相手からも何かが返ってくると信じているので、展示会場で出会った方々との会話をとても楽しみました。
このプロジェクトを発表できたことがとても嬉しく、人生がひと段落したと感じています。今は私の一部であるこの本を本棚にしまって、何か新しいことを始めたい気分です。新しい人生が始まる予感がしているのは、作品の発表の場があったからこそで、そのことにとても感謝しています。

インタビュー=Kanako Tsunoda

Max Creasy / How Things Look インタビュー

Added on by Yusuke Nakajima.

POSTでは、5月9日(木)からロンドンとベルリンを拠点に活動するビジュアルアーティスト、Max Creasy(マックス・クリージー)の展覧会が始まります。マックスは、オーストラリアとノルウェーをルーツに持ち、建築、人物、静物写真の撮影を通して独自の視覚言語を生み出しています。
展覧会の開催を前に、今回発表になる書籍「How Things Look」の制作に関する話しや、写真を撮るようになったきっかけなどを伺いました。

新しい作品集「How Things Look」について教えてください。この本は日本で撮影した写真で作った写真集ですよね?

はい、そうです。約1年前に家族と日本に2週間の旅行に行きました。家族との休暇のための旅行でしたが、もちろんカメラは持っていて、面白いと感じたものを撮影しました。
奈良県の吉野に行って伝統的な家を見たり、時期が4月だったので、北海道の函館まで行って最後の桜を楽しんだりしました。
この書籍に掲載されている写真は、自然な流れで撮影されたものなんです。少し前まで作品作りをするときには、コンセプトをまず考えて、その後入念なリサーチをしてから撮影に出かけていました。
でも「How Things Look」では撮影した写真を眺めているうちに、その中に興味深いものを見つけたので、それを作品にしようと思ったのです。



Maxの他の作品「Loose Change」や「Living Outside」も同じような手法で制作したのですか?

そうです。作品からコンセプトを見出すやり方は、「Casual Relationships」から始まりました。過去数年の間、制作の方法を変えようと思っていて、その時取り組んだのが「Casual Relationships」でした。最初ではなく、最後にコンセプトを見つけて繋ぎ合わせるという手法のことです。
なぜなら、自分はドキュメンタリー写真をルーツに持っていますが、人が想像するような事実や客観性はそこには存在しないということに気がついたんです。
主観的な選択の積み重ねである構造物としての写真について、さまざまな作品を制作するプロセスを経験しました。
「Casual Relationships」の制作過程は、文化を構築することと同じだと思っています。スケートボーダーやブレイクダンサーのような社会的集団は、文化的なアイデアを考え出し、それを支持し、何度も何度も披露する。そうすると大衆からも受け入れられるようになって行くのです。
だから、この本には繰り返しがたくさん出て来るんです。小さなものを見て、次に大きなものを見る。視覚文化は構築されたものであることを表現しています。
制作過程の中で、インスタグラムなどのプラットフォームを参考に、ヴィジュアルが支持されていくプロセスを観察したりもしましたよ。
今回発表する書籍「How Things Look」、過去作の「Loose Change」や「Living Outside」も「Casual Relationships」と同じ、撮った写真からコンセプトを見つけるという手法で制作していますが、それはCOVIDによるロックダウンも関係しているかもしれません。
例えば「Loose Change」を撮影した時はちょうどCOVIDが終わったころで、ただどこかへ行って、人やさまざまなものの写真を撮りたかった。日本旅行に行った時も、国内でさまざまな制限が終わった時期で、コンセプトを組み立てるよりも、自分の直感に従ったような作品になっています。

現在ベルリンとロンドンを拠点に活動されていますが、故郷のオーストラリアを離れたのはいつのことでしょうか?

大学院のために戻ったりもしましたが、20歳をすぎてからはオーストラリアに住んでいるとは言えないかもしれません。母方の故郷がノルウェーにあるので、オーストラリアを完全な故郷と感じたことはなく、いつも自分にとっての”最適な地”を探していました。



「How Things Look」では外国人ならではの視点で面白いと感じる物体が被写体になっているようにも思えます。オーストラリアとノルウェーをルーツに持ち、今はイギリスとドイツで活動をされていますが、マックスにとってのホームはどこでしょうか?

おそらくヨーロッパが自分のホームだと感じますし、自分のことをヨーロッパ人だと思っています。それと同時に、共通の理解を持っていると感じる人と一緒に時間を過ごす時、自分はホームにいると感じます。
例えばOK-RMのオリーとローリーと一緒に仕事をしている時や、それが場所が日本であっても、自分と同じ感覚を持っている人と出会って話をしているときに、故郷にいるような安心感を覚えます。自分にとってホームという感覚は、ドイツ語の「ヘイマート(Heimat)」というコンセプトに近いです。これはスピリチュアルホームという意味で、自分にとってのホームという概念は土地にとらわれず、頭の中にあるもので、自分が理解されていると感じる人と一緒にいることだなと思っています。



先ほど自分のホームだと感じるとおっしゃっていたOK-RMのお二人とは、どのように出会い、交流を始められたのですか?

ロンドンに住んでた時期は2000年代前半と、2012年と複数あるのですが、ロンドンに住む前から、OK-RMの仕事はオンラインで見つけてブックマークをしていました。その後ロンドンに引っ越した際に、彼らにメールでコンタクトをとったんです。
その後彼らから返信が来て、家がちょうど近かったこともあり、そこから交流が始まりました。
スタジオをシェアしていた時代もあって、その時に彼らがいつも若い学生や作家志望の人たちと会って話をする姿を間近で見ていて、自分が彼らと仕事をし始めた頃と姿が重なって見えたのを覚えています。
オリーとローリーが持っているエネルギーにはいつも影響を受けていて、今は同じ街に住んでいませんが、ロンドンに行く時には必ず会いに行くようにしています。


マックスは90年代のスケートボードカルチャーに影響を受けたとおっしゃっていましたが、写真を撮り始めたのもその頃でしょうか?


私はスケートカルチャーと一緒に育ちました。その頃を思い返すと、一つの文化というレンズを通して物事を見つめるという行為が自分に大きな影響を与えたと思っています。12歳の頃から自分をスケートボーダーと認識し、スケートボーダーが着るような服を着て、ステッカーを集めたり、スケート雑誌を読んだりと、その文化にどっぷりと浸かりました。今は物事全てをスケートボーダーとして見ている訳ではありませんが、当時の自分にとってはとても大事な世界を理解するための方法でした。
これは90年代前半のことで、情報を得る手段は雑誌が大きな役割を持っていた時代です。何のステッカーをはって、どの靴を履くか、またスケートでどういうトリックをするかということが自分のアイデンティティを形成していきました。
このディテールが大きな意味を持つという感覚が、自分がカメラを持ち始めたときに写真という世界に引き込まれた理由だと思います。なぜなら、私はスケーターを撮影するということに興味は沸かず、ドキュメンタリー写真に関心が向いていったからです。
初めてウィリアム・エグルストンの写真を見たときに、何か突然の気づきのようなものがありました。彼の写真は答えをくれるというより鑑賞者に疑問を投げかける作品だと思っています。
彼の作品にとても強い興味を引かれ、それは自分の作品にとても強く影響を与えたと思っています。



それはマックスの建物全体を写すのではなく、ディティールをピックするという建築写真へのアプローチにも共通しているものがありますね。
ウィリアム・エグルストンの写真の話に戻りますが、彼の写真にはある種の客観性があります。1枚の写真の中の要に優先されている被写体がないので、自分の裁量で物語を想像することができるのです。これは自分が建築を好きな理由と共通しています。建築、主に住居は、人が住むための建物で、それは窓の数だけ物語があるということです。建物自体は決して動き出すことはないですが、ある見方で見つめると、物語が見えて来ます。今も隣に立っているビルの部屋の中にハシゴが置いてあるのが見えますが、私は「誰かがハシゴを登って、ランプシェードの中に何かを隠したのかな?」という風に物語を想像するんです。
「How Things Look」では生き物のように見えるオブジェクトを写していますが、同時にそのものがそこに置かれた背景となる物語に、私は興味を持っています。



日本での展覧会に期待することはありますか?
日本で展示をするのはこれが初めてなので、とてもわくわくしています。最初に日本を訪れたのは、友達に会いに行った2001年のことで、それから日本への興味を失ったことはありませんでした。20年前は、ストリートカルチャーへの興味が一番強く、それから建築やデザインも好きになって、日本の文化や人が大好きになりました。
日本の友達や新しく出会う人々と、自分の作品をシェアして話しをするのがとても楽しみです。

インタビュー・写真=Kanako Tsunoda

[Report] 2017/5/21(日) Dayanita Singh / Talk Event

Added on by Yusuke Nakajima.

2017/5/20(土)より、同じく恵比寿にある東京都写真美術館では、インド出身の写真家Dayanita Singh(ダヤニータ・シン)の展覧会「インドの大きな家の美術館」が始まりました。本展にあわせて来日したダヤニータがPOSTへ来店、トークイベントに登壇していただきました。

開口一番、「世界で一番本をつくることがすき」と語り始めました。このことばこそ、彼女のすべてを物語っています。「写真を撮ること=本づくり」だと捉え、本自体が作品だとみなしています。あくまで写真は本をつくるための素材、展覧会は本のカタログに過ぎないと言うのです。
今でこそアーティストブックのように、アーティストの表現媒体のひとつとして成立した本というのは認知が広がり確立されていますが、彼女が初めての写真集・Zakir Hussain(Himalayan books刊、1996年)を出版した当時、こうした概念を理解してもらうことさえも難しかったようです。

 

Myself Mona Ahmed(Scalo Publishes刊、2001年)
最初の出版から15年を経て、ようやく2冊目の写真集が刊行されました。本書の印刷を担ったドイツのSteidl(シュタイデル)社創始者であるGerhard Steidl(ゲルハルト・シュタイデル)氏とは、これをきっかけに出逢いました。

シュタイデル社は、アーティストと密なパートナーシップを構築していくスタイルを重んじ、ともにひとつの出版物を生み出しています。世界各地からアーティストがゲッティンゲンにある社屋を訪れ、滞在しながら制作していくのです。(社員食堂もゲストルームも完備しているのだとか!)

「実際に出版が決まると話が早い」というのは、シュタイデル氏の定説。もちろんダヤニータのときも例外ではなく、実質的な制作時期は6ヶ月にも満たなかったそう。
スピード感にあふれるこの期間のなかで、シュタイデル氏は「あなたはカタログをつくりたいのか?それともアーティストブックをつくりたいのか?」と問いました。ダヤニータがその違いを尋ねると、「アーティストブックは本の制作にまつわるあらゆることを、すべてアーティスト自身が決めなければいけない」と教えてくれました。
これが、のちの彼女の活動のなかで欠かすことのできない指針となっていきます。

シュタイデル社とのコラボレーションを通じて、彼女は持ち前のチャレンジ精神を後ろ盾にして、実験的な試みを繰り返していきます。

 

chair(Isabella Stewart Gardner museum & Steidl刊、2005年)
初めてアコーディオン形式の製本をした本書では、プライベート・ディストリビューションというユニークな方法を編み出しました。
販売という方法をとらずに、世界中の友人50人にそれぞれ10冊ずつ託し、各々が決めたルールのもといろんなひとへと配ってもらうように頼みました。彼女から制約を設けたり、その進捗を追うようなことは一切しなかったことで、思いがけない形で広まっていきました。

実際の編集作業は、コンタクトシートを使って進めていきます。コンピュータに頼らず、自前のノートブックを土台にして模型をつくるかのようにコラージュを重ねていくのです。いつどこでアイディアがひらめくかわからないから、彼女はいつも旅にプリントを入れた箱を持ち出します。

 

Sent A LetterSteidl刊、2008年)
前述したような自作の本のなかから7冊を抜粋して再現しました。
制作に関してはシュタイデル氏が「編集をしなおさないで、オリジナルのまま出版したい」という意向のもと、「ドイツで本の箱をつくると機械的になってしまう。インドで箱をつくるのはどうか?」というさらなる提案があり、インドで郵便ポストで使われている布でつくられた外箱がつくられることになりました。

ダヤニータは、本書にまつわる面白いエピソードをひとつ話してくれました。
インド・カルカッタにあるジュエリーショップのあたりは治安が悪く、ジュエリーをショーウィンドウに飾ることができないため、からっぽの状態だったそうです。ダヤニータはこのスペースを使わせてもらえないかと願い出たところ、店長がかねてより彼女のファンだったこともあり、快諾してくれます。そこに設えたものが、[Sent A Letter]でした。2008年に初めて飾って以降、今もなお継続して展示されており、本展は彼女にとって最も長期間にわたる展覧会の記録を更新しています。美術館やギャラリーに頼ることなく、自分の思うようなスペースに作品を飾ることができた実例として、本の重要性を再認識しました。そして、「本が展覧会になる」と確信したのです。

 

File Room(Steidl刊、2013年)
本書に起用されている紙は、写真用のものではなく書籍用の紙です。本書の制作に関して、彼女は表紙の色を複数の異なった色を使うこと、そして表紙のビジュアルと中面に収録されて作品図版とを同じ大きさにしたいというふたつの意向がありました。当初は「それはあまりいいアイディアではないので、僕はやりたくない」と言い放ったシュタイデル氏も、一晩たったあくる日の朝には「やろう!」と決心を固めます。

母国インドの美術館で展覧会の話が舞い込んできたとき、美術館側には潤沢な予算がありませんでした。こうした状況を受けたダヤニータは、77冊のこの本を持参して、切り取って表に貼るというアイディアを創出しました。実はこのことはシュタイデル氏には内密に進めていたそうですが、結局耳に入り、彼もとても喜んでくれました。

彼女の感性は、ブックサイニングの際にも健在です。1冊1冊をユニークにしたいという想いから、サインを入れる際にオリジナルのスタンプを使います。

 

Museum of Chance(Steidl刊、2015年)
本書では、「可動式美術館」という概念を体現しました。前作からさらに発展し、88点の異なったカバーをつくりたいと考えました。バリエーションが多いほど、彼女にとっては展覧会の構成がしやすくなるのです。この旨を申し出たところ、シュタイデル氏は「ばかげている」と一蹴。「それなら自分でやる!」と言った翌朝、「今回が最後だよ」と釘を差しつつ快諾してもらえたそうです。
本自体のクオリティが高いからこそ、本を用いた魅力的な展覧会が実現する。これは、シュタイデル社の技量なくして成しえないことです。シュタイデルとダヤニータとの関係は、まさにシークレット・コラボレーション。斬新な彼女のアイディアに対して一旦はNoというけれど、いつも出来上がるものを喜んでくれます。

 

Museum Bhavan(Steidl刊、2017年)
現時点での最新作となる9冊の写真集(+1冊のテキストブック)は、まさに9つの美術館・9つの展覧会と言えるでしょう。本を収める箱はそれぞれ違った柄をしていますが、これは「選ぶ」ことの大切さがよく顕れています。
木版画の下に敷く布でつくられた箱はドイツで制作されたのち、輸送され世界中に渡ります。Amazonをはじめとするオンラインショップで買うとき、購入者はどの柄かを選ぶことはできません、ですが、実物を手にとれる環境にあれば、すきな柄を選ぶことができるのです。
本は展覧会であり、物質的なモノでもあります。この点においてもダヤニータは、本であることの重要性を強調しています。小ぶりな写真集はどこへでも持ち運ぶことができ、さらにその場所で即座に展覧会を構成することができます。彼女のことばを借りるなら「ポケット・ミュージアム」であるこの本によって、読者は自分だけの美術館を所有することができるのです。

トークイベントを終えて

ひととおり彼女から語られるストーリーを聴かせてもらって感じたのは、こよなく本を愛していること。
そして、ユニークであることの大切さでした。

わたしたちを取り巻く現代社会では、一辺倒なものの見方や制度にがんじがらめになっていることや、合理性が優先されすぎるきらいが少なからずあります。既存の枠組をものともせず、心から望む表現のために慣習を打ち砕く姿勢に、いつしか周囲のひとたちの胸を打ち、彼女とともに新たな展開を志すようになっていく。情熱を持って真摯に取り組めば、状況が味方になり風向きが変わっていくものなのだと感銘を受けました。


文:錦 多希子(POST/limArt)

Klaus Kehrer Interview

Added on by Yusuke Nakajima.

■クラウス・ケーラー氏インタビュー■

-アート出版社を設立したきっかけは?

学生の頃からアート業界で働こうと考えていて、大学卒業後すぐ、あるアート出版社に入りました。数年働いた後、ブックデザインのスタジオを立ち上げ、主に美術館や財団法人などの機関と提携しはじめました。しかし私の手掛ける本がバラバラ様々な出版社から刊行されるので、美術館や財団法人などの担当者たちから、デザイン・製本・卸しの流れをスムーズにするためにも、「はやく出版社を立ち上げてくれ」と何度も頼まれるようになったんです。

そこで、ある日、ISBNナンバーを取得しに行きました。その一歩がどれほどの経済的責任を負うものであるのか、今思えば、まるで分かっていませんでしたが...。パブリッシャーであることは、すぐに大好きになりました。立ち上がりの数年間は経済的にかなり困窮しましたけどね。


- What triggered you to launch an art book publisher?

when i was a student already i was thinking about working in the field of arts. after my university degree i immediately worked for an art book publisher for several years, then founded a studio for book design and cultural communications, collaborating mainly with institutional partners like museums or foundations etc. as my books had to be distributed by different publishing houses, the institutions i worked with again and again asked me to found my own publishing house to close the gap between designing resp producing books and the distribution. thus, one nice day i went to get the first isbn numbers, not at all having an idea about what huge economic responsibility this step would cause for my future. and of course, i started to love to be a publisher, even if the first years economically were the sheer hell.

 

- ケーラーは社内にデザインチームがありますが、ケーラーから出版される本のうち、どれくらいの割合が自社デザインのものですか?

私自身がもともとブックデザイン出身なので、ケーラには今もデザイナーとレタッチャーが在籍しています。少なくとも、6割程度がインハウスでデザインされた本でしょうか。ですが、社内では抱えきれないほどの仕事量に達したときには、優れたフリーランスデザイナーたちとも仕事をします。またプロジェクトによっては、パートナー機関の推薦するデザイナーと一緒に仕事をすることもあります。外部デザイナーは、私たちのブックデザインの幅を広げてくれるので、外部の方を起用することには何ら問題はありません。とはいえ、一つだけ大事なポイントがあります。外部デザイナーは、経験豊富でなくてはいけない。そして端的に「良い」デザインをつくる人であることが求められます。
 

- Kehrer has its design team. Approximately what percentage of books are designed by Kehrer Design?

as the design of the books was where i came from, there are still several designers and retouchers employed at kehrer. therefore, most of our books are designed inhouse. i guess like at least 60 % of the releases might be designed by my team. but i accept external design when it makes sense to do so. there are good freelance designers that we are working with in case of too much work inhouse. there are also other designers, that our partners would like to work with. and generally, i have no problem with externally designed books as they widen the range of design of our books. but of course, there is one important key: these external designer have to be experienced and just - good.



- 社員数はどれくらいですか? 本づくりにはデザイン、編集、印刷、製本と様々な段階がありますが、ケーラーはどこまでを自身で行なっていますか?

ベルリンにあるギャラリーの従業員は除けば、基本的なチーム編成は約20名です。デザイナーやレタッチャーの他に、印刷や製本などの「技術担当者」や、アーティストやキュレーター等と連絡を取り合いながら、各プロジェクトの翻訳や校正までの作業を含んだ進行管理を行う「プロジェクトリーダー」も社内にいます。他には、もちろんマーケティング部門のほか、広報、広告、国内外の流通の担当者もいます。社外のメンバーとしては、校正者、翻訳者、また先程も話に挙がりましたが、デザイナーをフリーランスの方に依頼することもあります。
 

- About how many people work in the office? Which functions exactly does Kehrer take care of upon making a book? (design/editorial/printing/book binding, etc.)

the basic team counts about 20 members, not included the employees at the gallery in berlin. they take care of design or retouches, or are responsible for the technical production in printing and binding, and some are coordinating the projects as project leaders, take care of translations and proof reading and keep in touch with the artists or curators. and furthermore, of course, there is themarketing department, these are responsible for the public relations, advertising and the international and national distribution mainly. apart from the internal staff members we work with a system of socalled satellites, freelancers e. g. for proof reading, translations or the before mentioned external design.
 


- 他の出版社と比べたとき、ケーラーの核となる独自性は何でしょうか?

すべてではありませんが、多くの他の出版社は、印刷の分野から派生しています。まず印刷機を所有し、その高価な機械費を捻出するために、印刷に重きを置くような考え方です。また他には、単純に利益のために出版ビジネスを行なっている出版社もあります。確かに、経済の中で生き残ることはとても大事ですが、それ以上にとても大切なことがあり、そこが、私たちの独自性に結びつくのではと考えています。

ケーラーのつくる本には、魂が宿っていると感じています。関係者全員が、良い本をつくるために、強い情熱を持っているからです。知識やノウハウに、その情熱がプラスされることにより、私たちの本は特別なものになるのと思っていますが、過去に一緒に仕事をしたアーティストやキュレーターたちも、そのように言っていました。

それに加え、画像処理、印刷、製本における技術的な品質も、勿論本の重要な部分を担います。だからこそ、中国やヨーロッパ南部よりも印刷費は高くつきますが、ケーラーの本は今でもドイツで印刷・製本されています。
 

- How would you describe the core uniqueness of Kehrer books, when compared with other publishers?

apart of a few very serious publishers, a certain number of publishers come from the printing side, owned a printing house first of all and therefore mainly focus on printing in order to feed the expensive machines. others see publishing just as a business. we also have to make sure we economically survive. but there is another important clue, that probably makes the difference:

i believe, most of the kehrer books have kind of a soul. everybody aboard is really enthusiastic about working on good and lovely books. thus the passion combined with knowledge and know-how makes most of the books something special. at least, that's what artists and curators said we have worked with in the past. and i would like to add, that of course, the techical quality in image processing, printing and binding makes an important part of the books. thats why almost every kehrer book is still printed and bound in germany, even if printing is more expensive than in china or southern europe.



- ケーラー社は毎年ドイツ写真集賞等の賞を受賞され、国際的なアートブックフェアにもいくつも出展されていますが、その成功の要因は?

先ほど話した内容とも関連しますが、「良いデザイン」、「良い写真」、「できる限り最高品質の印刷・製本」、そして「たくさんの仕事量」でしょうか。とはいえ忘れてはならないのが、そうした賞というのは、プロジェクトそのものに委ねられているということです。本の内容が賞に見合わないのであれば、賞を得ることはできません。なので、私はキャリアのあるアーティストたちや、新進気鋭のアーティストたちと共に仕事ができること、そして面白い作品を選定しながら出版できることを、とても光栄に思っています。
 

- Kehrer Verlag now annually is a winner of e.g. the German Foto Book Award, and also participates various international art book fairs. What has lead the publisher to such achievement?

this relates to what we talked about before i think. good design, good images, best possible printing / binding and a lot of work :) but also, we may not forget that the awards are depending on the projects themselves. you cant win a prize or get awarded if the content of the book is not worth it. thus, i am also very greatful to work with important and emerging artists and to choose and publish interesting bodies of works.


- アーティストや写真家の要素で、ケーラーで出版をする(またはしない)決断を行なうときの、判断基準はどこにありますか?

最も重要なのは作品そのものです。写真として(そしてもっと広く「アート」として)傑出したものであるか、コンセプトは面白いか、など。また、アーティストの経歴にも注目します。アーティストがすでに優秀な功績を残しているか、美術学校での教育を受けているかなどは関係ありませんが、そのアーティストが一貫性を持ってプロジェクトに取り組んでいるかをみます。この点で言えば、いわば自分の目を信じながら将来有望なアーティストに投資する面において、ギャラリストの仕事とパブリッシャーの仕事は、とても近しいものかも知れません。
 

- What element becomes important of the artist/photographer, when you decide (or don't decide) to publish a project for Kehrer?

most important is the work itself, as if the photography (or art in general) is outstanding enough, if the concept is interesting and so on. also we have a close look at the biography of the artist. doesnt mean that the artist has to be advanced already, or not even that he has to have an art school education, but that the cv is consistent and representing a development in the field of arts. in this sense the work of the publisher is comparable to the work of a gallerist, who better invests in an artist with real future regarding the work.



- 本を作る上で、最も「難しいこと」は何ですか?

あまり魅力的な答えではないかも知れませんが、私自身の経験から答えさせていただこうと思います。デザインやレタッチ等の問題というのは、実はすぐに解決されるようなものです。プレスにおける問題も常に解決策が見つかります。1年間に10冊以内のみを刊行するような出版社であれば話は別ですが、そうでない場合、最も難しいのは、全てのプロジェクトを出版まで運ぶことでしょうか。スケジュール調整、各々のプロジェクトが必ず持つ固有に複雑な状況、イレギュラー対応など。言い換えると、出版の知識やノウハウがあればあるほど、その組織は、複雑で難しいものになるのかも知れません。
 

- What are the most difficult things upon making books?

from experience i would give a perhaps unexpected and not very charming answer. difficulties in design and retouches etc always are to be solved. problems at press always find a solution. if you do not just a few books per year, the most difficult thing is probably still keeping all on screen, adjusting schedules the right way, deal with the complexity of every project and the special circumstances of each publication. in other words, if there is the knowledige and specific know-how on doing books, the organisation always keeps complex and difficult.

 

- 本を作る上で、最も「楽しいこと」は何ですか?

アーティストとの相性が良い場合には、才能溢れるアーティストやデザイナーたちとの本作りの過程は、その全てが楽しいものになります。大切なのは、出版社とアーティストがそれぞれにリスペクトし合う関係性が築けていることです。「良い予感」に基づいてプロジェクトを行なうかどうかを決めているので、そもそもこの関係性無しにはコラボレーションには至ってないとも思いますが、例えば「これしか無い!」というデザインアイデアが思い浮かんだときや、初回の色校が素晴らしい刷り上がりだったとき、製本からサンプルの本が届いたとき、そしてようやく本が刊行されたとき、そんなときは、まるで赤ん坊を抱き上げるような幸福感に満たされます。誰かと共に本を作るというのは、楽しいなどという言葉では足りないときもあり、まるで恋愛関係のような特別な関係性を築きあげるかのような感覚になることさえあります。
 

- What are the most fun things you enjoy upon making books?

every book you work together with crazy artists or designers is fun as long as the vibes are good. if there is an understanding - and i assume that it doesnt come to a collaboration if the vibes are not ok - between the publisher respectively his team and the artist, there is always fun and real joy in creating a book together and having the ready book as a baby in common. particularly, these moments are for instance when the right idea in design comes up, when the pictures look great at the first sheets on press, when the first handbound sample comes from the binder, and finally when the ready book gets released - and celebrated! sometimes making a book with someone is more than fun, sometimes it feels like having a personal relationship.


- 本をつくる際、アーティストとのコミュニケーションで特に大事にしていることは?

良い本をつくりあげるには、お互いへの理解や共感が重要であることは先程話しましたが、プロジェクトを決定する前には、いちどきちんと顔を合わせてミーティングを行なうこともまた、私個人はかなり重要視しています。物理的に難しい場合はスカイプ等もを活用しつつ、なるべくお互いのことを知ろうとします。アートブックや写真集という、いわばとても「緊密」なものをつくろうとするのですから、いわゆる「化学反応」がみられなければ、一緒に取り組むべきではないと考えます。

また具体的な話もすると、プロジェクト初期段階においては、ダウンロードにひと苦労するような重たいデータよりも、扱いやすい軽いデータでのコミュニケーションを取る方がチームワークがはかどります。なので、これから作品提案を考えているアーティストの方々は、初期段階においては、低解像度PDFファイルを是非ご用意ください。話が進むようでしたら、勿論そのあとに本物のプリント作品や高解像度データ画像を拝見させていただく必要もでてくると思いますが、それはそのときにお知らせ致します。
 

- What do you prioritize when having communications with artists for projects?

regarding the importance of the mutual understanding or even sympathy as an contributing factor of creating a great book together, personal meetings before confirming a project are quite important to me. if this is not really possible regarding distances at least we try to get to know possible partners by skype or so. when the - as we say - chemistry is not right, one shouldnt work together on such an intense thing as a art- or photobook,

technically, more regarding the processes at the beginning of the communication on a project, my team prefers data that are easier to handle than heavy downloads. artists, that are about to submit a body of work, better send a lowres pdf first of all. later, of course, one has to see the real prints or high res images as samples to get a picture.
 


- 「良い本」の定義は何だと思いますか?

良い本。それは様々な欲求を結晶化させたような、物質としての強さを持ったものだと思います。先程も申しあげましたが、まず第一に良い本とは、興味深く力強い内容を持ったもの。その内容にふさわしい枠組みや、驚きを与えるための技術を組み合わせていきます。さらに、本全体の一貫性を保つために注意深く、いわば「繊細」に、デザインや素材を選んでいきます。そこから生まれた本は、見る者がその形でしかその本の存在を想像することができないような、完璧なものでなければならず、見た目、紙の質感、表紙の素材感、素晴らしいニスの香りなど、色々な感覚を満たしてくれるものでなければいけません。
 

- How would you describe a definition of a "good book"?

a good book has to be an object, an object of desire in several respects. first of all, as we said, a beautiful book has to have an interesting and powerful content, that deserves an interesting frame and surprising techniques. furthermore the design, the materials have to be chosen very carefully - or sensitively i would say - in order to get the whole appearance of the book coherent. theresult has to be the way that the recipient hardly could imagine the book differently, to see the book as a perfect book. severalsenses have to be served: what you see, how you feel the paper (and cover materials) and in best case: that you like the sent of the varnish etc.



- 電子書籍について、どう思いますか?

電子書籍に関して、悪い印象は何もありません。「旅行時に、iPadに読んでいる本を入れて持ち運べる」などの利点もあります。とはいえ、私の感覚が古いかも知れないんですが、写真集やアートブックを本気で好きな人は、電子書籍上で得られる情報だけでは満たされず、紙に印刷された本を好むものだと信じてもいます。先程も申しあげましたが、現代において、本は単なる「情報」以上のものを提供する存在でなければならないと考えています。「物」としての価値も持ち合わせいかなければ、長期的にみて、電子メディアと共存をしていくのは難しくなっていくでしょう。
 

- What do you think of e-books?

i have noproblem with e-books. there are advantages like having your reading with you on your ipad on travels etc. in the field of photo- and artbooks i am oldstyle perhaps but strongly believe, that seriously interested people would always prefer a printed book compared to just an information via e-book. but as we said: the book nowadays has to come up with much more than simply information, it needs to be the object, otherwise it cant compete with electronic media on longer terms.

(取材:KANA KAWANISHI ART OFFICE)

クラウス・ケーラーはドイツ、カールスルーエ(ドイツ)出身。マンハイム大学で学んだ後、ハイデルベルク(ドイツ)のアート出版社及び印刷所に就職。しばし従業員として働いた後すぐにブックデザインの道を歩み始め、美術館やアーティスト等と共に作品集や展覧会図録をフリーランスで請負い始める。ケーラー出版社を1995年に立ち上げ、現在も約20名体制のチームで運営。優れたデザイン、生産体制、そして海外流通に焦点を置きながら、主に写真集を出版している。2014年には出版事業の他、ベルリンにケーラーギャラリーをオープン。クラウス・ケーラーはEuropean Publishers Award for Photographyのドイツパートナーでもある。ブックデザインや写真集マーケティングのワークショップを行なう他、フォトフェスティバルのレビュアーを担当する等、常に若き才能との出会いを積極的に求めている。
 

Klaus Kehrer, born in Karlsruhe, Germany, studied at the University of Mannheim and then took a job at a art publishing house and art printer in Heidelberg. After a short period as an employee, he turned to book design and began to do freelance work producing art books and exhibition catalogs for museums and artists. Kehrer founded the Kehrer Verlag in 1995, which he runs today with a team of about twenty employees. The publishing house focuses on the design, production, and international distribution of primarily photography books. In 2014, the publisher in addition opened Kehrer Gallery in Berlin. Kehrer is the German partner of the European Publishers Award for Photography. He occasionally conducts workshops on book design and photobook marketing and, as a reviewer at photography festivals, actively seeks out fresh talent.

www.kehrerverlag.com,
www.kehrerberlin.com,
www.europhotobookaward.eu.

ケーラー社ハイデルベルク/ベルリンは、1995年に設立された、写真・ファインアート・文化の分野に特化した出版社。国内外のアーティスト、著者、美術館や文化財団機関、そしてケーラーデザイン社(デザイン/コミュニケーションエージェンシー)と共に一体となり、本づくりに取り組んでいる。ケーラー社の出版している一冊一冊が、パートナーたちとの建設的で無二のコラボレーションを証明するものであると同時に、一貫した高い技術力と優れたデザイン力の融合を体現させたものでもある。すべての本には出版社の誠意と熱意が注がれており、ページを捲るごとに細部にまで及ぶこだわりのなかに感じられる。

Founded in 1995, Kehrer Verlag Heidelberg Berlin specializes in books in the fields of photography, fine arts, and culture.

Working together closely with international artists, authors, museums and cultural institutions, Kehrer Verlag creates its publications in alliance with Kehrer Design, the affiliated design and communication agency.

Each book is a unique creation testifying to the constructive collaboration between the respective partners – with consistently high technical and design quality as the unifying element. We put our heart and soul into every Kehrer book, with an attention to detail that can be felt page after page.

Kehrer books are available wherever fine art and photography books are sold, and are distributed in most European countries, the USA, Canada and Asia.