boom +

Added on by Yusuke Nakajima.

オランダは世界的に見てもグラフィックデザインが非常に発展していますが、なかでもブックデザインに関しては特出した才能をもつデザイナーを多く擁しています。
この流れの第一線を走り続けるIrma Boom(イルマ・ボーム)。彼女は、その斬新かつ唯一無二のブックデザインで受け手を魅了します。その威力は、本自体の内容を問わず「彼女のデザインした本だから手に入れたい」というコレクターが後を絶たないほどです。

本書は、2013年よりIBO(イルマ・ボーム・オフィス)に在籍するグラフィックデザイナー・若林亜希子氏の構想により実現しました。
コンテンツは、元/現IBOスタッフたちによる客観的な視点からの批評により構成されます。

IBOで製作された本の見開きを並列して形成される「ブックスケープ」。
イルマが述べた個人的・デザイン思考的な言葉の集積とそれに対する解釈。
グラフィカルな要素のある円グラフによる分析。
色を着眼点としたインフォグラフィックス。
自身が携わった一連のプロジェクトを線に置き換えた表現。
体験に基づくイルマの格言的な言葉の連なり。
真っ白の束見本で構成されたインスタレーション的グラフィック。
イルマの手がけた本に登場する女性たちのイメージビジュアル。
本の「背」をもとにした着想。

多種多様なアプローチは、各々のユニークな個性はもちろん、それぞれがイルマと仕事をすることで得た糧やイルマとの関係性のあり方の多様さをもあらわしています。

バラエティに富む彼らからの証言で一貫しているのが、「イルマは仕事に対する強い情熱を抱いている」ということ。

プロジェクト実現のためならば依頼者との対立すら厭わない勇敢さや、何事も可能であると確信し、それを実現することに向けた強い熱意を抱き行動するふるまいは、まさに情熱の顕れです。その強い意思は、プロジェクトのあるべき姿を見据えた力強いイメージングによって支えられています。目標を明確に設定したら、あとは労力を惜しまず並々ならぬ集中力で邁進するのみ。協働する相手へ敬意を抱くことはもちろん、自分のやりたいことにも妥協を許さず、シンプルかつ大胆なアウトプットを続けていきます。

本書の後半には、編集者・デザイン評論家の古賀稔章氏によるイルマへのインタビューが収録されています。
ここで展開される彼らの対話を通じて、先ほどの批評とはまた違う角度から彼女のスタンスをうかがい知ることができます。

そのうちのひとつに触れてみましょう。
「独自性のあるデザインは、独自性のある内容の成果」というイルマのことばを端的にあらわす、製作上の重要なプロセスがあります。それは、ミニチュアサイズの見本を製作すること。彼女に言わせれば、建築家が建物の模型をつくる感覚に近いそう。デジタルデバイスのモニタ上でみる二次元的なグラフィックでは計り知れない、三次元ならではの物質的な特性を的確に選択するためには外すことのできないプロセスです。
そこへ美術学校で画家としての訓練を受けたことにより培った豊かな色彩選択が相まって、テキストやイメージの配置を具体的に構成していく。こうして、より完成度の高い本をつくりあげていきます。

boom +
de buitekant, case
178 pages
Softcover,
French fold binding, American dust jacket
165 x 235 mm
English, Japanese
ISBN: 978-94-90913-58-8
2015
価格:5,600円 +税